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都市の賑わいとインフラ
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執筆=千里国際情報事業財団 土井勉 |
都市の魅力として、多様な人々の集積があるとするなら、自動車交通と公共交通のどちらが、賑わいをもたらす可能性が高いのだろうか? こうした計算をしている事例がある(注).各交通機関とも同じ幅の道路や軌道を通過すると仮定して混雑時に輸送可能な人数は、自動車を1とするとバスで16、鉄道では77、また徒歩でも6という数字になっている.鉄道は自動車に比べて77倍の輸送人数が可能ということである.いくら道路や駐車場の整備を進めても、バスや鉄道に比べて、中心市街地という限定されたエリアに人を集めることは難しいことがわかる.
しかし、中心市街地活性化などの取組を進める場合に、郊外のSCとの対抗上、駐車場整備など自動車対応の施策は、地元から要望の多いものとなっている. 駐車場の整備が、どのようにして市街地の活性化に結びつくのかどうか十分に検証されないまま、行政も施設整備の施策として分かりやすいメニューである駐車場整備などに取組む傾向にある.
では、バスや鉄道など公共交通を中心市街地活性化施策に織り込むことが現状で、可能かというと,これもなかなか簡単ではない. これまでバス事業者や鉄道事業者は基本的には利用者の輸送を安全、確実に行うことを主要な命題としていたのであり、快適性などに取り組まれてはいるが、都市や地域との関係性は十分に視野に入っていなかった.しかし、少子高齢化や人口減少など、乗客減少が実感されるようになり、こうした事業者も輸送サービスに専念することで経営の見通しを立てることが難しくなってきた.
こうした危機感から、バスの場合、近年多く取り組まれているのがコミュニティバスである.これまでバス路線でなかったルートを走行したり、100円で乗車できたり、きめ細かなサービスで人気を博している.その先鞭をつけたのが武蔵野市のムーバスや金沢市の「金沢ふらっとバス」である.こうしたコミュニティバスの取組が話題になるにつれ、全国の都市で、コミュニティバス導入計画が実務者よりも、むしろ議会や首長の主導で行われることが増えてきた.
従来から走行しているバスは利用者が減少しているのに、何故コミュニティバスが待望されるのだろうか? 従来型のバスとコミュニティバスはバスいうことでは同じである.決定的に異なるのはコミュニティバスが、地域の人たちにとって利用しやすいような工夫、あるいは地域の一体になって運行を考えていることである.京都市の都心を循環する100円バスは沿道の多くの商店街にとって、来街者の回遊を促進するインフラとして位置づけられることにより,商店街がサポーターとなりバスを支えることになった.
モータリゼーションの進行が進んだ現在、公共交通を中心都市活性化のインフラとできる都市は多くはないのかも知れない.しかし、高齢社会を見通すと、自動車を運転しなければ生活ができない都市ではなく、公共交通と徒歩によって生活ができる都市が待望されているように考えられる.
こうした時代に相応しい公共交通と地域との新たな関係、新たなサービスを考えていくことが、結局都市の賑わいを形成するために重要なことになる.これまで十分な関係が構築できなかった公共交通と地域との関係もコミュニティバスのような新たな発想が、さらに発展・展開されることが期待される.そのために、地域の住民、行政、交通事業者などがまちづくりとして交通のあり方について語り合う場(これが「交通まちづくり」と言われるものである.)の形成が必要となる.
注:秋山哲男:「高齢社会のコミュニティ交通構成論」,pp.289〜318,東京都立大
学大学院都市科学研究科編:「都市の科学」,2002年3月所収を参考にした. |
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